夕映えの鴎

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オムニバス・ミラー(Omnibus Mirror)

「その鏡はこの図書館の扉をイメージして作ったものです」
 夢の中で誰かがそう言いました。
 男の人だった気がしますが、一体誰だったのか全く分かりません。思い出せば思い出すほど、色んな人の顔が浮かんできます。多分山頭火さんだったと思いますし、本当は鴎外さんだったかもしれません。もしかしたら、芥川さんだったような気がします。
 とにかく、私を愛するような親しい顔で鏡を渡してくれました。ちょうど、私の小さな手に収まるほどの細長い手鏡です。
 長方形の鏡をのぞくと、鏡の向こうから随分と見目麗しい自分が微笑んでいました。鏡を見ているのは自分自身だと分かっているのに――、鏡なら当然映しているものを反射していると理解しているのに――、鏡に映った自分が大層綺麗に見えて、思わずこちらも笑みがこぼれます。
 手鏡をひっくり返すと、細やかな銀の装飾が星空のように輝いていました。なるほど、これが図書館にある扉の装飾を写したものでしょう。細い柱のような縦長の装飾には、銀色の花が至る所に咲いています。星座を描くように点々と咲く花々から、質素でありながらも繊細な気品を感じられました。
 とても綺麗だ。私はもう一度鏡の面を見ることなく、そのまま夢から醒めました。

 もしまた鏡を覗いたら、今度は何が見えるのでしょうか。
(二〇二三年四月の夜に見た夢より)
 BGM/'Untitled' antihohey

「この鏡は
大層正直者だ」
MM001・No.013 森鴎外『百年越しの鏡合わせ』
 鴎外さんの著作に『不思議な鏡』があります。あの話のように、魂だけ彷徨い挙句大きな鏡に閉じ込められて色々な人に自分自身を批評される夢を見るでしょうか。 ちょうど鏡を貰う夢を見た日は、水煙草屋で花蜜という...

 一話 /  二話

「君は僕の首を
絞めてくれるかい」
MM002・No.001 芥川龍之介『鏡よ鏡、生きろ』
……ああ、でも、もしかしたら、芥川さんの詩歌にある「鏡」のような展開になるかもしれません。 鏡を前に、独りを知って、かきつばたの匂う待ち人を想っても面影しか映らず、どんなに鏡に語りかけても、...続きを読む
「春風にね、
ちょっと転がされて、」
MM003・No.059 種田山頭火『鏡のまばたき』
 山頭火さんは……、正直彼と鏡に結び付くものが思い浮かびません。しいて言えば、ぢつと瞳が瞳に喰ひ入る瞳という俳句を詠むと、鏡に映った私の瞳を私の瞳がぢつと食い入っていました。...(著書の引用あり)

 一話 /  二話

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